2017年5月19日金曜日

運動学習①

今回からは運動学習についてのまとめを行いたいと思う。

●運動学習とは?●
 学習はさまざまな研究領域で扱われるテーマである。それぞれの領域で定義は異なるが、今回は行動科学における運動学習に基づいてまとめていきたいと思う。行動学習的な運動学習の定義では、「運動学習は練習や経験に基づく一連の過程であり、結果として技能的行動を行いえる能力の比較的永続的な変化をもたらすものである。」とされている(セラピストのための運動学習ABCより)。運動学習が練習や経験に基づく一連の過程であるということは、ある運動の学習において、どのような練習や経験がその学習に寄与したかという因果関係の特定ができる過程のみが運動学習ということになる。つまり、子どもの正常運動発達などは運動学習からは除外される。また、運動学習が比較的永続的な変化をもたらすものであるということは、セラピー場面でパフォーマンスの変化が起こっても、セラピー以外の場面や翌日まで変化が持続しないもの(Carry overしないもの)は運動学習が成立したとはみなされないということである。

●運動の学習過程●
 我々が運動を学習する過程を考えてみる。我々がある運動を行う際は、脳で運動のプログラムが生成される。この運動プログラムは筋骨格系に動く指令を出すと共に、脳内に運動記憶として貯蔵される(内部モデル)。運動が行われると身体内部の感覚受容器(関節受容器・皮膚感覚・前庭覚・筋感覚など)により感覚情報が取り込まれる。この身体内部の感覚情報は、内在的フィードバックと呼ばれ、この情報を基に内部モデルとの比較・照合が行われ、誤差があれば修正し新たな運動プログラムを作成する。つまり、運動学習とは内在的フィードバック情報に基づき、内部モデルとの比較・照合を行い新たな運動プログラムを生み出す過程のことである。治療中にセラピストが与える「(荷重練習中に)○○kg体重をかけれています。」や「(歩行練習中に)足がよく上がっています。」などの結果の知識(knowledge of  results;KR)パフォーマンスの知識(knowledge of performance;KP)などの外在的フィードバック情報は学習対象の焦点化を図ったり、顕在化を図るための補助的な役割として働く。

 また、運動を学習する過程は、課題の性質を理解し、何をどうすればよいか、どんな結果が出るとよいかを考える認知段階から、さまざまな方法を試し、比較照合をすることでより効率的な動きへ進める連合段階、学習が完成し、潜在的な意識によって運動の調整を行う自動化段階を経る。学習の認知段階においては、学習すべき課題の焦点化を図ったり、結果の顕在化を図るため外在的フィードバックが必要となるが、外在的フィードバックが頻繁に与えられると学習が外在的フィードバック情報に依存してしまい、自動化に進めなくなってしまうこともある。潜在的な意識によって運動を調整するためには、外在的フィードバックを減らす必要がある。

 ここでキーボードをブラインド・タッチで入力する課題を考えてみる。私は、ブラインド・タッチで入力することができず、常に手元を見ながら、打ち間違えがないか確認を行いながら入力をしている。私のようにキーボードを見ながらでなければ入力ができないものが、ブラインド・タッチで入力できるようになるためには、手元を見て結果を確認するという外在的フィードバック情報減らす練習が必要となる。このように、運動学習を進めるためには、外在的フィードバックを減らす必要がある。

●フィードバックの頻度と運動学習●
 上記で説明した通り、運動試行全てで外在的フィードバックを与える(100%FB)よりも2試行に1回(50%FB)や4試行に1回(25%FB)などのように外在的フィードバックの頻度を削減した条件で練習を行った方が運動学習が得られやすいとされている。その理由としては、数試行を反復して、運動イメージを明確にしてから外在的フィードバックを受ける方が比較照合が行いやすく、過剰な修正を防ぐことができる。また、外在的フィードバックを与えすぎると、学習者が外在的フィードバックに依存的になり、能動的な処理が行われなくなるためだとされている。


●まとめ●
以上のまとめを下記に示す。




本日はここまで。

続きはまた次回。。。

書籍の紹介
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法

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