2017年10月1日日曜日

雑誌「Stroke」に掲載決定!!「Assessment Model to Identify Patients With Stroke With a High Possibility of Discharge to Home」

 この度、アメリカ脳卒中学会(American Stroke Association)のオフィシャル誌「Stroke」に論文が掲載されました。
 ・・・とは言っても、今回は共著であるため名前を載せて頂いたという程度ですが。

 今回掲載された論文は、Assessment Model to Identify Patients With Stroke With a High Possibility of Discharge to Home(急性期脳卒中後の自宅退院可能性の評価指標の開発)というタイトルであり、脳卒中発症3日以内に測定した評価項目を基に急性期病院から直接自宅退院が可能か否かを判断する指標を作成したものである。

 近年の脳卒中患者は軽症化が進んでおり、特に脳梗塞の患者においては7割近くが急性期病院から退院している(某脳神経センターのデータより)。そのため、入院直後より退院へ向けた支援を行うことが重要であり、今回開発された評価指標を利用することでよりスムーズに支援を行うことが可能となると思われる。

興味のある方は、論文も読んでみてください。
Assessment Model to Identify Patients With Stroke With a High Possibility of Discharge to Home



本日はここまで。

続きはまた次回。。。

2017年9月24日日曜日

症例報告の重要性について考えてみた

 「症例報告」について話をする機会を頂いた。「症例報告」についての話を行うに当たり、自分なりに症例報告の重要性について考えてみた。
 今回は、症例報告の重要性についてまとめていきたいと思う。


●エビデンスとは?●
 Evidenceは、根拠・証拠を意味する英単語であり、医療や理学療法場面で利用されれば、医療・理学療法の根拠・証拠の意味を指す。エビデンスにはその信頼の度合いによってレベル1~レベル6までランク付けがされている。


 症例報告はエビデンスレベル5であり、治療の根拠としては信頼性の低いものである。症例報告を行っても治療の根拠としては信頼性の低いものであるため、行っても意味がないと思われるかもしれないが、それは違う。
 エビデンスには、3つの役割がある。1つ目は、治療の根拠となるデータを作り出すこと。2つ目は、作り出されたデータを臨床の場で使うこと。3つ目は、作り出したデータや臨床の場で使った経験を多くの人に伝えることである。そのため、私のように臨床で働いている療法士が、医療のエビデンスに貢献できることといえば、作り出されたデータを臨床の場で使うこと、つまり、EBMを実践することであり、そして、その経験を学会や論文で多くの人に伝えることであると思う。


 信頼性の高いエビデンスは数多く出されているが、日本人を対象としたものはあまり多くないことが指摘されている。また、信頼性の高いエビデンスがあったとしても、方法を標準化するために対象者を限定していることも少なくない。そのため、自分が対象とする患者にそのエビデンスが有効かどうか吟味する必要がある。症例報告を行う意義は、エビデンスを利用する際の「工夫やコツ」を伝えることであると思う。




●EBMについて●
 エビデンスとEBMは混同されがちであるが意味は異なる。エビデンスは、先ほど示した通り医療の根拠・証拠を意味し、臨床判断においてその判断に根拠を与えるもののことである。一方、EBMは、個々の診療にエビデンスを応用する方法論である。つまり、エビデンスは一般的な情報で、EBMは個別の医療実践であることは区別しなければならない。
 EBMは、個々の診療にエビデンスを応用する方法論であるため、「脳卒中の患者には、この治療方法でなければダメ!!」と治療を統一・限定するものではない。自分の目の前にいる患者それぞれに、よりよい治療方法はなんであるかを導き出すことが大切である。そのため、療法士が治療方法を決定する、もしくは、患者自身が受ける治療方法を決定するための判断材料としてエビデンスは利用されるものである。誤っても、EBMとはエビデンスに基づいた診療ガイドラインを作成し、診療の統一を図るという認識を持ってはいけない。



 また、EBMは、臨床疫学を個々の診療に応用するための方法論とも言われている。疫学とは、集団を対象とした研究で、Aという集団とBという集団を比較すると、どちらが有意な改善を示しているか?という事を示す研究方法であり、結果に関しては、統計学的に有意かどうかが重要となる。そのため、エビデンスレベルでは、多施設間のランダム化比較試験などが信頼性の高いものとなっており、症例報告などの個人を対象としたものや統計学的処理を行っていないものは信頼性の低いものとなっている。
 そのため、EBMで用いるエビデンスは、原則として疫学的方法によって得られた経験的・実験的な情報であることが重要であるとされている。しかしながら、注意すべきことは、統計的に有意差があっても目の前の患者に対して有益かどうかは吟味しなければならないことである。例えば、「ある治療を行うと5%有意に早く退院できる」といったエビデンスがあるとする。「5%早く・・・」と聞くと有益に思うが、平均在院日数が60日の場合、5%早く退院できるという事は、通常よりも3日早く退院できるというデータということになる。歩行速度でも同様で、「5%有意に歩行速度が速くなる」というエビデンスを適応しようとする患者の10m歩行が10秒であれば、9.5秒になるというデータになる。つまり、利用しようとするエビデンスが、対象の患者にとって有益かどうかきちんと吟味することが重要となる。しかしながら、EBMで用いるエビデンスは、疫学的方法によって得られたものとされているため、神経科学や運動力学などの基礎科学的な実験で得られたデータは信頼性の高い根拠とはならないことも認識しておかなければならない。




 EBMを実践するために必要な項目をまとめると、下記に示す図のように5つの項目が重要となる。



 まず、ある患者に、ある介入を行うと、別の介入と比較してどうなるか?といった臨床的な疑問を挙げることから開始する。
 次にその疑問を解決するために必要なエビデンスの検索を行う。注意しべきは、ガイドラインなどはガイドラインを作る組織委員会に所属する人の批判的吟味、つまり、主観も入っているいう事である。多くは経験を積まれた方が作成しているため問題ないと思われるが、解釈が妥当かどうは再度吟味する必要があると思われる。経験の浅い療法士であれば、ガイドラインを利用した方が良い結果を導けると思うが、経験を積んだ療法士であれば、一次情報源となる原著論文などを自ら吟味し、活用することも重要と思う。
 利用すべきエビデンスが見つかったら、取得したエビデンスが妥当なものかどうか吟味することが必要で、目の前の患者に役立つかどうか?目の前の患者の価値観や目的に合うかどうか?を吟味し、患者と一緒に決断する必要がある。
 最後にエビデンスを用いた結果がどうであったか?次に活用する際に工夫したほうが良い点はあるか?などの振り返りを行う。このようにEBMは成り立っている。

●まとめ●
 症例報告はEBMの実践における「工夫やコツ」を伝えることができるものである。患者それぞれの臨床的な疑問1つ1つが症例報告の重要なテーマになると考える。また、エビデンスが少ないものに関しては、症例報告が新たなエビデンスを作り出すための問題提起となることもあるため、臨床家として、医療に貢献するために症例報告を行うことは重要と考える。



本日はここまで。

続きはまた次回。。。




2017年9月8日金曜日

雑誌「理学療法学」に掲載予定(長期外来リハビリテーションにより就労に至った被殻出血の一例)

 雑誌「理学療法学」に投稿していた症例報告が受理され、Jstageで早期公開されることとなった。前回の論文掲載時も同様であったが、論文の形になるとそれらしくなり、自分の書いたものが載っているとうれしいものですね。


 今回投稿したものは「症例報告」であるため、エビデンスレベルでいえば価値の低いものであるが、臨床の療法士として、「症例報告」を行うことは重要と考えている。
 集団を対象とした研究を行い新しいエビデンスを作り出すことは大変重要なことと思う。しかしながら、そのエビデンスを利用し、いわゆるEBMを実践すること、また、それを報告することは臨床の療法士としては重要な役割であると思う。

 臨床の療法士もEBMに基づいた理学療法を実践し、多くの場で活躍できるようになれればいいなぁと思います。

興味があれば論文も読んでみて下さい。
長期外来リハビリテーションにより就労に至った被殻出血の一例



本日はここまで。

続きはまた次回。。。

2017年8月1日火曜日

第7回日本ボバース研究会学術大会

 先週末に盛岡で行われた第7回日本ボバース研究会学術大会に参加した。
 東北地方に行くのは、今回が初めてだった。7月末にもかかわらず、ジャケットを着ていても十分過ごせるくらい涼しく感じた。

 今回の学術大会では、ボバース基礎講習会を受講したセラピストによる介入がFIMに良い影響を与えるか?というテーマで発表を行った。
 ボバースコンセプトに基づく介入とは何か?治療内容をどう定義づけるのか?ということに議論が及んだが、個人的には、ボバースコンセプトとは、姿勢コントロールと運動コントロールの観点から対象者の潜在性を評価し、個別に治療を行っていくものだと思うので、研究のためにどのアプローチを何分行うものか?などの定量的に治療体系を定義づけする事に関しては、やや違和感を感じる(研究としては成立しないかもしれないが・・・)。

 とはいうものの、来年度も似たようなテーマで、治療内容も調査しつつ発表できたらなぁと思っています。




本日はここまで。

続きはまた次回。。。

2017年5月28日日曜日

運動学習③

引き続き、運動学習について。
今回は、脳科学における運動学習について少しまとめていきたいと思う。

 運動学習は3種類に分類される。それは、教師なし学習教師あり学習強化学習である。今回は教師あり学習と強化学習についてまとめていく。

●教師あり学習と強化学習
 教師あり学習は、目標となる運動があって、それと同じ運動を行おうと比較・修正する方法である。この学習は、主に小脳により調整が行われ、「意図した運動」「実際に行った運動結果」誤差を検出し、長期抑圧に基づいてその誤差を減少させる「誤差学習」である。
 強化学習は、行った運動結果がもたらす成功(報酬)をできるたけ増やしていこうとする方法である。この学習は、主に基底核により調整が行われ、「期待される報酬の量」「実際に得られた報酬の量」誤差(予測誤差)に応じて興奮し、シナプス伝達効率を向上させるものである。



●強化学習●
 強化学習が行われるためにはドパミン作動系が働く必要があり、ドパミン作動系の活動が大きくなればシナプスの伝達効率を向上させることができるとされている。これに関する研究は、動物実験により行われているものが多い。よい行動をとればエサを与える。エサが与えられれば満足感が与えられ、その時にドパミンが放出され、行動が強化される。イヌがお手を覚える際に行われるものがまさに強化学習である。この原理は脳卒中患者に対しても同様であるだろうか?このことに関連して、ドパミンの前駆物質であるレボドパと理学療法の組み合わせが脳卒中後の運動機能回復に関与するかどうかを調べた研究がある。その結果、レボドパと理学療法を組み合わせたアプローチを行った群の方がプラセボ群と比較し有意な運動機能の回復を認めたとされており、ドパミン作動系の活動を促すことにより、脳卒中後の運動機能の回復を促すことが示されている。

 それでは、薬物を用いずドパミン作動系の活動を促すためにセラピストはどうしたらよいだろうか?健常人を対象にした研究において、金銭を与えた場合に良好な学習が得られ、線条体等の興奮性を認めたことが報告されている(Wachterら 2009)。この研究において罰金を課した群はよい学習が得られなかったと報告されている。また、食べ物を報酬とした場合、肥満女性は一般女性や男性と比較し、学習の成績が低下したとの報告がある(Zangら 2015)。これらの報告より、罰を与えるよりも報酬を与えた方がよい学習効果を示し、与える報酬も個人や環境因子の違いよって価値が異なると思われる。しかしながら、リハ介入ごとに金品を与えることは現実的には不可能である。金品を与えず、学習を促す方法を調査した研究を紹介する。この研究は、褒めることが歩行能力の改善に寄与するかどうかを調査したものである。結果、褒めた群は褒めなかった群に比べ歩行速度が有意に改善したとされており、褒めることが報酬として働き、運動学習を促したことを示唆している。そのため、リハ中にドパミン作動系の活動を促し、運動学習を促進するためには良い結果が出たタイミングで褒めることが重要であると思われる。

 もう一つ強化学習を促すための重要な要素がある。それは課題の難易度である。サルを用いた実験において、報酬が出る確率を変動させることでドパミン作動系の活動がどのように変化するかを調査した研究がある。この研究では確率が50%となる課題の時に最もドパミン作動系の活動が大きかったとされている(Fiorilloら 2003)。ヒトを対象とした研究では、もう少し高い確率の方がよいとされるものもあり、少し難しいくらいの課題(50%~70%)に設定することが重要と思われる。

●教師あり学習●
 教師あり学習は、「意図した運動」と「実際に行った運動結果」の誤差を検出し、長期抑圧に基づいてその誤差を減少させる「誤差学習」である。ここで小脳で行われる長期抑圧の仕組みについてまとめたいと思う。
注)図中に示すは興奮性を、は抑制性を示す
①まず、大脳皮質から運動指令が出されると、苔状線維を通じて小脳核へ情報が送られ、小脳核の細胞を興奮させる。小脳核の細胞が興奮することにより、シナプスの伝達効率を向上させ、その運動が起こりやすいように作用する。


②同時に大脳皮質で作られた運動プログラムは、平行線維を通じてプルキンエ細胞に情報が送られる。

③運動が実行されると筋・骨格系からの感覚情報が、登上線維を通じてプルキンエ細胞に送られる。

④プルキンエ細胞で大脳皮質で作られたプログラムと実際の運動によって産出された感覚情報の誤差を算出し、誤差分だけ小脳核の活動を抑制する。

⑤小脳核の細胞は、活動しすぎている神経線維を抑制し、シナプスの伝達効率を低下させることで誤差を修正する。加えて、その情報は視床を介して滞納皮質へ送られ、プログラムの修正が行われる。

 このように、長期抑圧に基づいて誤差を減少させていき、最終的には抑制しなくても運動が実行できるように調整をしていく過程が教師あり学習である。


 以上、3回にわたり運動学習についてのまとめをおこなった。
 我々が行うリハビリテーションは、①評価を行い、②問題点に対してセラピー場面で治療を行いパフォーマンスの変化を図る。③そして、セラピー以外の場面や長期的にパフォーマンスの変化が図れるよう関わることが大切であり。①のためには姿勢・運動コントロールが、②のためにはハンドリングやその他さまざまな介入方法(ハンドリングのためには感覚システムの理解が必要)が、③のためには運動学習の理解が重要である。これらの3つのシステムを常に考えながら治療を行うことが大切であると思う。



本日はここまで。

続きはまた次回。。。


2017年5月21日日曜日

運動学習②

 引き続き、運動学習についてのまとめを行いたいと思う。

 まずは、運動学習についてのおさらいから。
 我々が運動を行うと身体内部の感覚受容器(関節受容器・皮膚感覚・前庭覚・筋感覚など)により感覚情報が取り込まれる。しかし、全ての感覚情報を脳内で処理すると情報量が多すぎて脳はパンクしてしまう。それを避けるため、注意を向けられた感覚情報のみ脳内に貯蔵するようコントロールされており、この情報を基に内部モデルとの比較照合を行い、新たな運動プログラムが生成される。注意を向けるための補助的な役割として外在的フィードバックを与えることがあり、それは同時フィードバックと呼ばれる。同時フィードバックは、動作前や動作中に行われるもので、動作目標の焦点化を図る際に活用される。同時フィードバックには、自分の身体そのものに注意を向ける内的焦点(internal focus)身体外の環境や道具へ注意を向ける外的焦点(external focus)がある。


●焦点化の違いが運動学習に与える影響●
 では、同時フィードバックにおける内的および外的の焦点化の違いにより、運動学習に違いがあるのだろうか?ここでゴルフのアプローチに関する研究を紹介したいと思う。この研究は、ゴルフの低技術者と高技術者に対して内的焦点化および外的焦点化を行った際に学習効果に違いがあるかどうかを調査したものである。結果としては、低技術者に関しては、関節角度や体の動きに焦点を与えた方がよい成績を示し、高技術者に関しては、打ったボールの軌道や距離などの外部に焦点を与えた方がよい成績を示した。また、高技術者に関しては、関節角度や体の動きに焦点を与えた場合、低技術者と同等の成績となり、成績が悪化したと報告しており、初心者に対しては内的焦点化が効果的であり、熟練者に対しては内的焦点化を行うとパフォーマンスが低下する可能性を指摘している。

 また、ファンクショナルリーチを用いて内的および外的の焦点化の違いにより、運動学習に違いがあるかを調査した研究もある。この研究では、内的および外的の焦点化を行う順序の違いが運動学習に与える影響について調査されている。結果、外的焦点化を図った後に内的焦点化を図った群は、個人差なくパフォーマンスの向上を認めた。内的焦点化を図った後に外的焦点化を図った群は、著しくパフォーマンスの向上が図れたものと、向上が図れなかったものに二分化された。向上が図れなかったものに関しては、内的焦点化を図ったにもかかわらず、外部環境に注意を払いながら動作を行っていたとの事であった。つまり、内的焦点化を図ったとしても、理解や注意が悪く、身体に注意を向けることができなければ学習を図ることが難しいということであろう。論文内でも、外的焦点化は個人差が少なくパフォーマンスの向上が図れる手法であり、内的焦点化は適切な理解を促せた場合に著しくパフォーマンスを高めることができる手法であることを指摘している。

 もう一つ、ファンクショナルリーチを用いた研究で、同時フィードバックと最終フィードバックの組み合わせによって学習効果に違いがあるかを調査したものがある。最終フィードバックとは、動作終了時に課題結果やパフォーマンスの特徴を伝えるものであり、運動記憶を顕在化する役割を担っている。研究の結果、内的焦点化を図った場合は、パフォーマンスの特徴を伝えた方が学習効果が高く、外的焦点化を図った場合は、課題結果を伝えた方が学習効果が高かった。つまり、同時フィードバックの情報と最終フィードバックの情報は類似したものの方が学習効果が高いということである。
 

 以上をまとめると・・・

 ここで、セラピストが行うHandlingは学習にどのような効果を与えるのかを考えてみる。Handlingは、筋の出力やタイミング、筋感覚閾値のコントロールを行うことで運動パターンを変化させる効果がある。つまり、身体内部の情報を変化させ、身体内部に注意を向けることで課題の焦点化を図る効果があると思われる。Handlingの効果を高めるためには、身体内部に焦点化を図るような声かけやパフォーマンスの変化を伝えることが必要と思われる。




本日はここまで。

続きはまた次回。。。





2017年5月19日金曜日

運動学習①

今回からは運動学習についてのまとめを行いたいと思う。

●運動学習とは?●
 学習はさまざまな研究領域で扱われるテーマである。それぞれの領域で定義は異なるが、今回は行動科学における運動学習に基づいてまとめていきたいと思う。行動学習的な運動学習の定義では、「運動学習は練習や経験に基づく一連の過程であり、結果として技能的行動を行いえる能力の比較的永続的な変化をもたらすものである。」とされている(セラピストのための運動学習ABCより)。運動学習が練習や経験に基づく一連の過程であるということは、ある運動の学習において、どのような練習や経験がその学習に寄与したかという因果関係の特定ができる過程のみが運動学習ということになる。つまり、子どもの正常運動発達などは運動学習からは除外される。また、運動学習が比較的永続的な変化をもたらすものであるということは、セラピー場面でパフォーマンスの変化が起こっても、セラピー以外の場面や翌日まで変化が持続しないもの(Carry overしないもの)は運動学習が成立したとはみなされないということである。

●運動の学習過程●
 我々が運動を学習する過程を考えてみる。我々がある運動を行う際は、脳で運動のプログラムが生成される。この運動プログラムは筋骨格系に動く指令を出すと共に、脳内に運動記憶として貯蔵される(内部モデル)。運動が行われると身体内部の感覚受容器(関節受容器・皮膚感覚・前庭覚・筋感覚など)により感覚情報が取り込まれる。この身体内部の感覚情報は、内在的フィードバックと呼ばれ、この情報を基に内部モデルとの比較・照合が行われ、誤差があれば修正し新たな運動プログラムを作成する。つまり、運動学習とは内在的フィードバック情報に基づき、内部モデルとの比較・照合を行い新たな運動プログラムを生み出す過程のことである。治療中にセラピストが与える「(荷重練習中に)○○kg体重をかけれています。」や「(歩行練習中に)足がよく上がっています。」などの結果の知識(knowledge of  results;KR)パフォーマンスの知識(knowledge of performance;KP)などの外在的フィードバック情報は学習対象の焦点化を図ったり、顕在化を図るための補助的な役割として働く。

 また、運動を学習する過程は、課題の性質を理解し、何をどうすればよいか、どんな結果が出るとよいかを考える認知段階から、さまざまな方法を試し、比較照合をすることでより効率的な動きへ進める連合段階、学習が完成し、潜在的な意識によって運動の調整を行う自動化段階を経る。学習の認知段階においては、学習すべき課題の焦点化を図ったり、結果の顕在化を図るため外在的フィードバックが必要となるが、外在的フィードバックが頻繁に与えられると学習が外在的フィードバック情報に依存してしまい、自動化に進めなくなってしまうこともある。潜在的な意識によって運動を調整するためには、外在的フィードバックを減らす必要がある。

 ここでキーボードをブラインド・タッチで入力する課題を考えてみる。私は、ブラインド・タッチで入力することができず、常に手元を見ながら、打ち間違えがないか確認を行いながら入力をしている。私のようにキーボードを見ながらでなければ入力ができないものが、ブラインド・タッチで入力できるようになるためには、手元を見て結果を確認するという外在的フィードバック情報減らす練習が必要となる。このように、運動学習を進めるためには、外在的フィードバックを減らす必要がある。

●フィードバックの頻度と運動学習●
 上記で説明した通り、運動試行全てで外在的フィードバックを与える(100%FB)よりも2試行に1回(50%FB)や4試行に1回(25%FB)などのように外在的フィードバックの頻度を削減した条件で練習を行った方が運動学習が得られやすいとされている。その理由としては、数試行を反復して、運動イメージを明確にしてから外在的フィードバックを受ける方が比較照合が行いやすく、過剰な修正を防ぐことができる。また、外在的フィードバックを与えすぎると、学習者が外在的フィードバックに依存的になり、能動的な処理が行われなくなるためだとされている。


●まとめ●
以上のまとめを下記に示す。




本日はここまで。

続きはまた次回。。。


2017年2月22日水曜日

最近思うこと…

以前書いたブログ(ボバースアプローチと整形外科的アプローチの比較)で紹介した論文に対するLetter to the editorをもとに、私のブログに対してNegativeに書かれたブログがあった。今回はそこで紹介されていたLetter to the editorを紹介したいと思う。
ちなみに、Letter to the editorとは雑誌で発表された論文に対して、反論などの意見を述べるために出された「意見書」のようなものである。

Letter to the editor
 私はこの学術誌に掲載されている論文の質に感銘を受けている。しかしながら、Wangらの最近の論文に関しては、私の懸念を表現するために意見書を書かなければならない。
 この論文全体を通して、著者は初期評価時と最終評価時の差(利得)を治療評価の指標としている。このこと、特に非線形転帰尺度に由来するデータに利得を利用することは誤りではないかと思う。例えば、MASに利得が利用されている点である。この転帰尺度は、低い点数は非常に簡単なものであり点数を取りやすいが、点数が高くなるにつれて難易度が高くなり、点数が上がりにくい性質がある。これにより、床面効果や天井効果を予防するようにデザインされている。実際、多くのセラピストは、患者が最高点を出すことは難しいコメントしている。論文の中の表2に示される相対的な回復において、MASは整形外科的介入を行った群は23.3から25.5に増加し、ボバース概念に基づいた介入を行った群は、17.9から24.0に増加している。それぞれの利得は、整形外科的介入を行った群は2.0で、ボバース概念に基づいた介入を行った群は6.1であり、ボバース概念に基づいた介入を行った方が3倍近く改善したことを示唆するデータである。しかしながら、2つの理由から誤りを感じる。1つ目は、初期評価時の点数において、ボバース概念に基づいた介入を行った群のMASの点数が非常に低かったことである。2つ目は、最終評価時のMASの点数は整形外科的介入を行った群の方が高かった点である。これと同じことがBBSの分析にも言える。点数の変化量(利得)の比較は、線形尺度でさえ最終評価時の点数の比較よりも統計的に有意差を示しやすく、治療の違いを誇張しやすい。そのため、私はほかの手段でデータを分析するよう指導を受けたことがある。例えば、最終評価時のデータの分散分析を行うなどである。今回、通常示されるこのようなデータが示されていないように思われる。
 この点から今回意見を申し出た。痙縮患者に対するデータに関して、有意差が強く表れているようであるが、私は厳密な分析を行うと統計的に有意な効果を示さなかったのではないかと考える。



参考文献
Mepsted R:The recent article by Wang et al. Efficacy of Bobath versus orthopaedic approach on impairment and function at different motor recovery stages after stroke: a randomized controlled study.Clin Rehabil. 2006 Feb; 20(2): 183.

 最近学会などに参加して思うことは、EBMに基づくリハビリテーション重要性が求められてから、RCTによる研究やシングルケーススタディーにおいてもABAデザインによる研究が増え、治療方法の有効性を示す発表が増えていると思う。このような研究や発表は大変重要であるとは思うが、「症例数が・・・」や「統計学的処理が・・・」、「両群間のベースラインが・・・」など、方法論でその効果についてNegativeに捉えられることも少なくない。ましてや、今回のようにその分野に精通した研究者による査読を受けた論文でさえ、同様の指摘を受けている。私も学会等で発表することがあるが、私のように研究に関する知識が乏しいものが、特定の治療方法に対する効果についての研究や発表を行うことの意味について疑問に思うことがある。最近思うことは、私のように臨床で働いてるものは、患者や方法の選定に難渋する研究を行うよりは、症例1例でもよいので症例報告を大事にすることが重要のように思う。現在は科学的根拠のある治療方法がたくさん報告されているが、その研究において適応外とされているものや、復職などの活動・参加に対するアプローチに関しては方法が確立されていないものもある。そのような患者に直面したときに、現在報告されている方法の中から効果がありそうな方法を探ったり、また、さまざまな方法を組み合わせたりしながら、患者の目標に対してアプローチを行った結果を報告することが臨床家としては大切ではないかと思う。目の前の患者に対してなにができるか?そして、その結果がほかの患者にどう生かせるか?そういった観点からの研究や発表が臨床家としては大切だと思う。


 本日はここまで。


続きはまた次回。。。

2017年2月15日水曜日

脳卒中患者の自立を促すための装具療法

久しぶりの投稿です。
年末年始は論文の執筆等でなかなか時間がとれなかったのですが、一段落したのでまた少しずつブログへの投稿を再開したと思います。

先日、当院が回復期リハ病棟を開設予定ということもあり、広島市であった回リハ学会に参加した。 3,000人も参加したと聞いて、地元広島県で行う学会でもたくさんの人が集まるんだなぁと少し誇らしく思った。

学会で興味深かったのは大高先生の特別講演であった。「回復期リハ病棟とは」ということを考えさせられるもので、活動を上げながら、いかに安全を管理するかという相反する命題を可能にするシステムが大事であるとの事だった。
これを装具療法で考えてみると、機能や能力の向上が図れるような治療的要素と安全で自立した生活が送れるような機能代償的要素のバランスが重要だろうと感じた(当たり前ではあるが…)。

今回は、自立した生活を促すための装具療法とはどんなものか再考したものを紹介したいと思う。

脳卒中患者の自立を促すための装具療法

 私の装具療法に関する考え方は、以前ブログで紹介したものとおおよそ変わっていはいない(詳しくはこちら)。私たちが行う動作や活動は、個々の能力と実施する課題、動作や活動が行われる環境によって変化する。そのため、能力や課題が大きく変わらない状態であっても、環境を整えることで、より多くの動作や活動が可能になる。環境因子は人的環境因子と物的環境因子に分けられ、ハンドリングは人的環境因子であり、杖や装具は物的環境因子である。病棟生活などで自立を促すということは、ハンドリングなどの人的環境因子を整えることができない環境であり、自立を促すためには装具などの物的環境因子を整えることが必須となる。
 また、装具療法には機能代償用装具と治療用装具という2つの利用目的があり、それぞれ目的が異なるため、特に急性期や回復期の初期段階においては、治療場面と生活場面で同じ装具を利用しないといけないわけではない。患者の自立を促しながら、機能や能力の向上を図る回復期病棟においては、機能代償的要素と治療的要素のバランスが重要になると思われる。

●片麻痺患者の歩行速度と体幹・下腿の可動範囲との関係●
 書籍 卒中片麻痺者に対する 歩行リハビリテーション の中で、片麻痺患者の歩行速度と体幹前後傾可動範囲や下腿部可動範囲との関係を調査した結果が示してある。(体幹前後傾可動範囲や下腿部可動範囲については下記図を参照)
 
結果、歩行速度が0.20m/s未満の患者下腿部可動範囲が小さく、体幹可動範囲が大きかった。歩行速度が0.20s~0.37m/sの患者下腿部可動範囲が小さく、体幹可動範囲が小さかった。歩行速度が0.38m/s以上の患者下腿部可動範囲が大きく、体幹可動範囲が小さかった
 これらの関係を図示したものを下記に示す。


 歩行速度と体幹や下腿の可動範囲との関係から、歩行能力向上に向けた介入の戦略を考えると、歩行速度が0.20m/s程度までの低速者体幹の可動範囲を減らすことを、0.20m/s以上の中速者~高速者下腿の可動範囲を増やすよう介入するとよいと思われる。

 また、これらの関係をバランス戦略で考えると、0.20m/s程度までの低速者は足関節戦略がほとんど行えず股関節戦略によってバランスをとっている状態であり、0.20m/s以上の中速者~高速者足関節戦略によってバランスをとることができているが、安定性限界の範囲が異なる状態であると思われる。そのため、バランスの側面から治療方針を考えると、低速者に対しては足関節戦略を促すことを、中速者~高速者に対しては足関節戦略の安定性限界を広げ、難易度の高いバランス課題を足関節戦略で行えるよう促すことが必要となると思われる。(治療的要素)

●装具の処方●
 以上の方針を基に、病棟生活で利用する装具の処方について考えてみる。低速者に対しては、体幹の安定性を促すことを目的に、足関節の自由度(必要に応じて膝関節の自由度も)が制限できる装具を、中速者~高速者に対しては、足関節戦略の安定性限界を広げることを目的に徐々に足関節の自由度を広げ遊動に導けるような装具、必要に応じて制動や動きの補助を行えるような機能的な装具を処方する必要があると思われる。

 いずれにしても、患者の歩行能力に応じて関節の自由度をコントロールし、何の学習を促すか明確にしながら、安全と活動のバランスをうまくとれるような装具を処方する必要があると思われた。


 本日はここまで。


続きはまた次回。。。